2019年度代表馬リスグラシューの血統は配合のお手本となる要素が多々あります。

多少血統に興味があると「リファールクロスがあるからリスグラシューは走った」というような短絡的な発想に陥りがちですが、私は「なぜハーツクライ産駒やディープインパクト産駒はリファールクロスがあると走る産駒が多く出るのだろう?」という研究の仕方をします。

まず私はサンデーサイレンスの血統では、地味に見えてほとんど誰も研究していなかった母系に深く注目しています。

●サンデーサイレンスの祖母の父モンパルナス Montparnasse
フランス語の響きを持つモンパルナスですが、この馬は「アルゼンチン産で米国で種牡馬となった」以外はほとんど知られていません。
しかしその配合パターンは、父がハイペリオン直仔のガルフストリーム Gulfstreamで、母の父がサンインローのひ孫に当たるフォックスカブ Fox Cubですから、典型的な「ハイペリオン-サンインロー」の組み合わせ配合です。

(あるブログにあったアルゼンチン競馬の翻訳記事というものを読むと、モンパルナスは現役時代、アルゼンチンのG2勝ち、ブラジルの長距離G1ブラジル大賞で2着、カナダG3で3着の実績があり、代表産駒にはG1ブラジル大賞勝ち馬アルセナル、米G2デルマーダービー勝ち馬チャーリーブーツ、アルゼンチン産で米G1マンハッタンH勝ち馬ビッグショット、ベネズエラ年度代表馬ストレートウェイなどがいるようです。 https://ameblo.jp/koyakinoshita24/entry-12550682736.html


ハイペリオン-サンインローのニックスは、今ではスマホ版ダビスタでもニックスとして使えるようで、広く知られるようになっているかも知れません。このニックスがサンデーサイレンスの祖母マウンテンフラワーにはモンパルナスを含めて3連続で装備されています。

●サンデーサイレンスの曾祖母の父ヒラリー Hillary
これもまた詳細な記録に乏しい地味な種牡馬ですが、先と同様の「ハイペリオン-サンインロー」の組み合わせ配合です。(父がハイペリオン直仔のカーレッド Kheled、母の父がサンインローの孫に当たるボスウェル Boswell)

●サンデーサイレンスの6代母にあたるベルメア Belle Mere
ベルメアは「ボーペール Beau Pere(米豪新で成功した種牡馬。名馬スワップスの母の父)の全姉」という良血牝馬です。
ボーペールはサンインローの代表産駒としてwikipediaにも載っているくらいですから、このベルメアもサンインローの血を引き継ぐ真っ当な血統の持ち主と言えます。

つまり、サンデーサイレンスの祖母マウンテンフラワーはカリフォルニア産の地味な血統で競走成績も7戦0勝ながら「ハイペリオン-サンインローのニックス」を3代重ねた強烈な系統交配が施されています。
(この配合の特徴は、サンデーサイレンスとロージズインメイが同じ「ヘイロー系のG1馬」であっても全く違う個性を持っている要因だと私は考えています。)

リスグラシューは、こういったサンデーサイレンスの祖母マウンテンフラワーの血の配置(ハイペリオン-サンインロー)をよく反映した配合になっており、「走るサンデー系の基本パターン」をしっかり抑えています。

[ベイロナルド系の系統交配]
ともにベイロナルドの孫であるハイペリオンとサンインローを何重にも重ねる配合を俗に「系統交配」と呼びます。
この「ベイロナルド系の系統交配」はドイツの競走馬に非常によく見られる古典的な配合パターンです。

私はこの血に特にこだわっていて、購買に関わったダンディコマンド、配合の段階で関わったマチカネフクキタル、ウイングアローといった名馬も「ハイペリオンとサンインロー」(*それに加えてトレーサリー)が決断のポイントでした。
ダンディコマンドを予約購買した1992年に「ハイペリオンとサンインロー」と唱えて馬を買ったのは日本で私だけではないかと思います。

・ダンディコマンドなら、Abernant、チャイナロック、Utrillo、アイアンエイジ
・マチカネフクキタルなら、Tudor Minstrel、ソシアルバターフライ、テューダーペリオッド
・ウイングアローなら、Flower Bowl、Swaps、ソシアルバターフライ、メイドウ

各々、これらの血の存在が「ハイペリオンとサンインロー」なのです。

そしてこれは2004年全欧年度代表馬にして、母として英ダービー馬を輩出した名牝ウィジャボードの配合にも、日本が誇るディープインパクトおよびその代表産駒の配合にも、共通して見られる特徴です。
まさに「ハイペリオンとサンインロー」は現代でも通用してしまう普遍の配合テクニックでもあります。

(面白いことに、「ハイペリオンとサンインロー」にレディジョセフィンがプラスされていると、ウィジャボード、ダンディコマンド、マチカネフクキタルのように芝馬に、プラスされていないとウイングアローのようにダート馬になる特徴を私は見出しています。)

リファールのクロスが世界的な流行を迎えたという話も聞きませんし、往々にして「ハイペリオンとサンインロー」は派手さはなく、「一見地味だけれど血統をよく見たら該当する」血が多いように感じています。
1950年代の英国リーディングサイアーであり、早々に直系が絶えてしまったコートマーシャルなどは現代であまり語られることはありませんが、この血は現代の血統でも、静かに名馬の血統の中に鎮座しており、事あるごとにその姿を見せてくれます。あのディープインパクトの血統にもしっかりその姿を見ることができます。


まず最初にこういった予備知識があればリスグラシューの配合が全く違うものに見えてくるのです。

●リファールもハイペリオン-サンインロー配合である
さて、リスグラシューの血統では3本クロスしているリファールですが、これも「ハイペリオン-サンインロー」の配合パターンに当てはまります。

・リファールの父ノーザンダンサーは、ゲインズボロー Gainsborough(ハイペリオンの父)の4×5
・リファールの母の父コートマーシャル Court Martialは、「ほぼハイペリオン-サンインロー」配合(父フェアトライアルが母の父サンインローで、祖母の父がゲインズボロー)

つまり、「ほぼハイペリオン-サンインロー」のコートマーシャル牝馬にハイペリオンの父であるゲインズボロークロスを持つノーザンダンサーが配合された、というのがリファールの血統の基本構造です。
リファールは二重に強化された「ハイペリオン-サンインロー」配合であるのです。

・サンデーサイレンス祖母は「ハイペリオン-サンインロー」
・リファールも「ハイペリオン-サンインロー」
・ハイペリオンもサンインローも「ベイロナルドの孫」
・「ベイロナルド系の系統交配」はドイツで非常によく見られる古典的な配合

この説明で、「なぜサンデーサイレンス系種牡馬にリファールクロスが加わると走るのか?」という謎は明らかになったと思います。

この基本的な構造をベースに更にリスグラシューの配合を見ていくと、更に5種類の「ハイペリオン-サンインロー」が発見できます。これは驚くべき密度で、リスグラシューの血統表にはハイペリオンとサンインローが折り重ねられています。

◆1. トニービンの母セヴァーンブリッジ Severn Bridge(*1)
◆2. カンパラ(トニービンの父)の母ステートペンション State Pension(*2)
◆3. スペシャル Sprcial(サドラーズウェルズの祖母)の父フォルリ Forli(*1)
◆4. ミラーズメイトの母父の祖父オリオール Aureole(*1)
◆5. リスグラシューの5代母ディリーダリーの父アバーナント Abernant(*1)

リスグラシューの血統表に現れるこれら5頭は、「ハイペリオン-サンインロー(*1)」「ほぼハイペリオン-サンインロー(*2)」の配合です。

特に◆1と◆2はトニービンの母と父の母ですから、「父サンデーサイレンス・母の父トニービン」の組み合わせから3頭のG1馬、合計6頭の重賞勝ち馬が出たのも納得です。(ハーツクライ、アドマイヤベガ、アドマイヤグルーヴ、リンカーン、サンプレイス、アドマイヤボス)

リスグラシューの血統はこのように「ハイペリオン-サンインロー」がサンデーサイレンスに3箇所、トニービンに2箇所、母リリサイドに3箇所、合計8つも重ねられています。
このような配合はたまたま偶然で生まれた配合とは考えづらく、ドイツ血統のようにある程度計算されたものを感じさせます。この血統の大きな特徴がリスグラシューに圧倒的な爆発力、底知れない成長力をもたらしたのではないでしょうか。

[各種配合のテクニックが窺えるリスグラシューの血統]
リスグラシューは「ハイペリオン-サンインロー」の爆発力だけではなく、私がこれまで説明してきた王道の配合テクニックの観点からもよく整えられています。

クラシックレースに強いノーザンダンサー~アルマームードクロスは、更に拡張されてリファール-ノーザンダンサー-アルマームードまで継続されたクロスになっていますが、このクロスの継続に直結するのが

・母の父父ベーリング Beringが持つ別ラインのアルマームード
・母の父内サドラーズウェルズ Sadler’s Wellsが持つ別ラインのノーザンダンサー

という2つの血です。
クロスの中身をさらに濃くする「別ラインからのクロスの参加」。これは名馬の配合には欠かせません。
(なおリファールとサドラーズウェルズの関係性にも私は着目しており、それはいずれ説明する機会を持ちたいと思っています。)

おまけにリファールはリファール自身も母の父コートマーシャルも「ハイペリオン-サンインロー」です。
クロスが「単なるクロス」で終わらず、別ラインの参加による補強、別の要素であるニックスまで取り込んで、1つの大きな塊を形作っているリスグラシューの血統は、実に強力な形と言えます。

[母内に触らずに置くクロス]
そして見逃せないのは、母リリサイド自身ではクロスしていたミルリーフクロス(リリサイドの中では5×3)と、ミルリーフの父母であるララン Lalunクロス(リリサイドの中では6*7×5)。

サンデーサイレンスとは全く別種の異系であり、特別に優秀な血であると私が見ているミルリーフとラランのクロスを「あえて触らずに」置いてあります。
この「あえて」のテクニックも血が活性化するのに大いに役立っていると私は見ています。

リリサイドは現役時代フランスで5勝してG3勝ちも無い競走成績でした。卓越した一流馬でもなく、良血でもない血統で、半妹2頭がセレクトセールに上場された時もほとんど注目されませんでした。
日本でオープン馬1頭すら出せずに終わったミラーズメイトという種牡馬の血が入っていながらも、嫌わずに購買したノーザンファームの決断力は素晴らしいものがあります。

しかしながら、リスグラシューの血統にある異常な数の「ハイペリオン-サンインロー」、王道であるクロスの継続、触らないクロスによる血の活性化。
これだけ配合のテクニックがきめ細かく詰まった血統はあまり見られるものではありません。

血統表を丁寧に見ていくだけでも、リスグラシューが驚くべき成長を遂げワールドクラスの牝馬となったのも納得できるものがあります。
手間が掛かっても血統表を8代、9代で研究すれば、それだけの価値が得られる事もまたリスグラシューは教えてくれています。

◆衣斐浩【配合の深淵】
http://bit.ly/1GkHN43

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