2018年に同タイトルの記事を前編・後編に分けて書かせてもらったが、今回はその続きを書くことにした。的場文男騎手は2018年に佐々木竹見騎手が持っていた地方競馬最多勝記録(7152勝)を更新して、その後も重賞を勝つたびに最高齢重賞制覇の記録を更新している(森下博騎手が持つ最高齢勝利記録ばかりは、時を待つしかない)。

現在は一昨年から持ち越された宿題、東京ダービー制覇に向けて黙々と準備を重ねている。昨年は騎乗馬がなく、一昨年はクリスタルシルバーで通算10回目となる東京ダービー2着。本人は「37回乗って2着10回だから、連対率だけはすごいんだよ。」とジョークを飛ばすが、勝ちたいという気持ちがヒシヒシと伝わった。

一昨年、ゴールした瞬間の実況は「的場、来たか?どうだ!」だった。劣勢は明らかでもそう叫ばずにいられなかったアナウンサー、勝利騎手インタビューでも矢野騎手に「内にいたのが的場さんだと気付いていましたか?」の問いかけていた。一瞬困った表情になった矢野騎手だって、実は的場文男騎手のダービー制覇を願っている。

南関東リーディングトレーナー・浦和の小久保師も、「的場さんにうちの馬でダービージョッキーになってほしい。」と公言するほどの大ファン。心待ちにしているファン達は村上春樹のノーベル文学賞のように、ダービーデーの大井に詰め掛ける。村上春樹のノーベル文学賞とどっちが先か、今年は現地で盛り上がれるかは微妙だが。

的場文男騎手の現3歳世代の重賞の騎乗成績は以下の通り。
鎌倉記念 チョウライリン5着
平和賞 チョウライリン3着
ハイセイコー記念 チョウライリン3着
東京2歳優駿牝馬 ジャギーチェーン12着
ニューイヤーC チョウライリン4着
雲取賞 チョウライリン7着
京浜盃 チョウライリン10着
クラウンC ヘブンリーキス8着
羽田盃 モンゲートラオ5着
東京湾C サンスクリット8着
(ローレル賞・全日本2歳優駿・ユングフラウ賞・浦和桜花賞・東京プリンセス賞は騎乗馬なし)

6月3日の東京ダービーにはモンゲートラオで参戦、羽田盃は1着から1秒2差。この約6馬身を埋めるために、付きっきりで仕上げていると聞いた。4代母はトウメイ、そこにハギノカムイオー→スキャン→マーベラスサンデー→トランセンドと配合を重ねてきた馬。距離延長は間違いなくいいし、的場騎手と手が合いそうなタイプ。

今の状況と重なって思い出されるのは、ナイキゲルマンとのコンビで戦った2003年クラシック。羽田盃は同馬主のライバル・ナイキアディライトと初対戦、逃げるアディライトを見ながらゲルマンは6番手。直線で的場騎手が追っても追ってもその差は詰まらず、0秒9差の2着に完敗した。

その日の最終レースを勝った的場文男騎手は、「あと1ヶ月、毎日の稽古でアディライトとの差を1秒詰められるように工夫して乗りたい。」と話してくれた。後ろを振り返るのではなく、いつも前だけを見つめるのは当時も今も同じ。モンゲートラオにも付きっきりで、逆転の一手を狙っている。

2003年の東京ダービーは、アディライトとゲルマン着差はほぼ変わらずの1秒でまたも2着。けれど11回目のプレイバックはもういらない、今年こそダービージョッキーになって欲しい。「子供の頃から、宿題は終わらなかったからな。」と冗談に紛らせつつも、大井の帝王の視線は残された唯一の勲章を見据えている。

◆竹内康光【馬よ草原に向かって嘶け】
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