現在は「競馬評論家」という肩書きで仕事をさせてもらっているが、元はと言えば専門紙の記者。馬券の情報源は圧倒的に騎手・調教師が多かったが、コロナウイルス蔓延以降は現場取材が大きく制約されて、手に入る情報も二次情報(伝聞など)が増えている。

現場派からすっかり書斎派(と言っても実際に狭い我が家に書斎などないが)の評論家になってしまったが、貴重な情報を提供してくれる存在はまだある。懇意にしている(馬券が大好きな)馬主筋が、地方競馬のレース予想を尋ねてくる代わりにJRAの馬券情報を教えてくれるのだ。

先日、こんなことがあった。JRAのデビュー戦でブービーから8馬身離されたシンガリ負けを喫した馬がいて、その2戦目が「勝負だ」という。調べてみるとゲート試験に落ちてデビュー前に去勢された馬で、初戦は気の悪さを出して3コーナーでバカついて鞍上がやめてしまったそう。

正直言って不安が先に立つパターンだが、「乗ってくれたリーディング上位の騎手も走ると言っているし、次は大丈夫だろう。」とのこと。4秒以上負けて人気は無くなるだろうし、動き出しを捕まえないと馬券は勝てないわけでそこには相応のリスクも伴うもの。単勝でドン!と勝負、そんな気になった。

翌日になって、「優先権がなくて中央場所だといつ使えるかわからないから、ローカルに回るってよ。鞍上も替わっちゃうけど、相手も楽になるしまあ大丈夫だろう。」との電話。うーん、気性難の馬で手替りか…。後で聞くとローカルが主戦場の中堅騎手で減量もない、本当に大丈夫か?

しばらくしてまた連絡が入る。「日曜に競馬場に運んで、環境に慣らしてから直前に追い切って使うみたい。追い切りでブリンカーかチークを着けて、馬を走る気にさせてみるって。こりゃ、いけるだろ。」と馬主筋。滞在も馬具もプラス材料だし、やっぱり買ってみるか。

いよいよレースの週を迎えて、水曜の夜にまた電話が鳴る。「ブリンカーを着けて追い切ったら、頭を上げちゃって全然走りに集中しないんだと。調教師はブリンカーもチークもやめて、鞍上にテンからブチ上げて走らせて来いって指示したそうだけど、どうだろうね?」…ここで俺に訊くなよ。不安になった。

結果から言うと、その馬はダッシュはイマイチだったが向正面でマクって先頭に立つとそのまま3馬身差で楽勝。馬券も獲るには獲ったが複勝を厚めに、金額もドン!と言うほどは買えず。レースが終わるとすぐに電話が鳴り、「ほら、大丈夫って言ったろ!」と弾んだ声。情報信ずべし、信ずべからず。

◆竹内康光【馬よ草原に向かって嘶け】
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